2008年1月12日土曜日

Dr. Munro クリニック見学

今日は、Jacksonで家庭医として開業しているDr.David Munro氏のクリニックを見学した。
Dr.Munroとの知り合いのきっかけは、このブログでも紹介したとおり、12/15/2007のJacksonの医師会のパーティーで、このときに話しかけてくれたのが彼である。Dr.MunroはもともとMSU関連のレジデンシーを卒業したあと、約25年前にここで開業をされたとのことでかなりのベテランなのだが、このクリニックを訪れて彼の斬新なこころみのかずかずに驚かされっぱなしであった。

<Dr.Munro's Office>
レンガ創りの細長い2階建ての建物でかなり大きな施設であった。2階が診療所になっていて、全て1階はカルテ庫になっている。ミシガンでは、カルテは過去のものは全て保管する義務があるとのことで、開業年数が増えれば膨大なカルテの数になるとのことである。
まず、スタッフについては、Munro医師はアメリカでは少ないソロプラクティスの形をとっていて、その他は主に女性問題を担当しているナースプラクティショナーが一人とナースが常時4人(受付もかねている)、マネージャーである奥さんともう一人の事務員という構成。日本の一般的な診療所とスタッフ構成は似ていると思われる。











診察室は、全部で10あり、Munro医師は3つの部屋を診察に使っていた。反対側の並びの診察室はナースプラクティショナーが使用していた。診察室はそれほど広くなく、ドアも小さいため、ハンデのある患者さんにはやや辛いかもしれない。診察室には、パソコンはなく、小さなテーブルと、診察台、眼底鏡、耳鏡などがおかれてるシンプルな部屋であった。
基本的にはレントゲン技師が常時ついているようで、レントゲンは全ての部位でOK。
他にはminor surgeryのための処置室があり、そこで医師が自らシグモイドスコピーもするそうである。実際、見学日には肩の扁平上皮癌疑いの人の生検をしており、電気メスで凝固止血をなんなく行っていた。














その他、特別な装備として本格的な骨密度計やマンモグラフィーの機械が導入されているのには驚いた。特にマンモグラフィーを導入している施設はJacksonでもまだ数少ないそうで、Dr.Munroの刷新的で意欲的な姿勢がうかがえた。日本でよく使用するエコーは置かれていなかった。












さらに驚くべきは、電子カルテを約5年前から導入しているということであった。現在Jackson地区には基幹病院を中心にして80施設で電子カルテを用いた連携があり、全て同じソフトを使っているため患者の情報の交換が大変スムーズだということであった。導入には約40,000ドルかかったとのことだが、これには導入時の指導料も含まれているとのこと。バックアップも2つのシステムが稼動しており、今はほとんどトラブルがないとのこと。グループディスカウントがあるため、初期投資も20,000ドル程度安くなっており、その後のランニングコストも紙代などのことを考えるとこの投資は手の届かないということではなく、いちクリニックとしても全て総合して考えると圧倒的に利点が多いとのことであった。
診療所を巻き込んでの地区ごとのこういう取り組みは日本に比べて進んでいると感銘を受けたが、特にこういう取り組みに対して俊敏に対応していくDr.Munroの柔軟な姿勢を大変素晴らしいと思った。

<Dr.Munroの外来>
まず、患者数に驚いた。診療時間は朝の8時から12時までと、午後の1時から7時まで。その間10分間隔でほぼぎっしり患者の予約が入っているのである。あとで、奥さんに聞いて分かったのだが、これは他の診療所と比べてもかなり長いほうであるとのことであるが、それにしても診療時間は日本のドクターのそれよりもかなり長い。相当気力と体力の要求される技である。余談であるが、アメリカの開業医はかなり自分本位で診療時間を決めているようで、中には朝の6時から診療を始めて、午後2時には閉めるひともいるとのことであった。

彼の診療の仕方はユニークで、電子カルテの入ったノートパソコンをのせる伸縮自在のテーブルを操って、診察室と廊下を行き来していた。あらかじめ診察室に誘導されている患者のところに、ノックをして移動式のカルテと一緒に入っていき、診察室では、テーブルを低くして、自分も椅子に座ってテーブルごと患者に向き合って話を聞く。診察中はテーブルを高くして、絶えずカルテが見えるようにしており、患者さんにデータをみせるときもそれを患者の見やすい高さに調節して見せていた。診察室を出るときはテーブルと一緒に退出して、そして、廊下の途中にある少し広いスペースでカルテ記載をする、というスタイルである。
忙しい彼の外来において、この可動式のテーブルを用いて、ノートパソコンで診察するのは大変理にかなっていて彼のセッティングにおいては有用な方法であると感じた。
診察はやはり、患者一人10分の割り当てのため、MSUのスタッフのものとはかなり違っていた。時間節約のため、話を聞きながらカルテ記載を行っていたが、聞くときはしっかり向き合って話を聞いていた。
基本的にはやはり全身のトレーニングをちゃんと受けておられる印象で、目の症状を訴える患者に対して、眼底をみていた。
もうこのクリニックにかかって長い人が多いためか、家族構成や患者のコンテクストなどはばっちり頭に入っているようで、あまり余分な話はなかったが、ポイントをしぼった適切なコミュニケーションをされていると感じた。アクセスの容易さと、高齢で不安定な患者層を反映してか、大学のものよりは少しフォローアップの間隔は短い印象であった。














<奥さんにインタヴュー>
午後からは、職場ではマネージャーをしている奥さんにクリニックの運営面について話を伺った。
マネージメントに関してもっとも大変なことは保険会社や公の保険とのいわゆるレセプトのやりとりであるそうである。家庭医療は特に広範囲の疾患や患者層を扱うため、ダントツに保険会社の数が多く、また患者の保険会社の変更も日本に比べると頻繁に行われるため、この作業が大変複雑とのことであった。保険会社の数は100を超えるとのことであった。

<その他>
患者数は約1000人で、患者層は、主に高齢者が多いとのこと。子供は見るし、新生児検診もするが、マタニティーに関しては今は見ていないとのことであった。以前は出産も含めてみていたことがあったそうだが、今はもうそんな余裕がないとのこと。患者数と診療時間の長さを考慮すれば納得である。
他、往診に関しては、基本的には病院の医師の仕事で、日本とは違い診療所の医師が見ることはあまりないそうである。

電子カルテに関しては、特にhealth maintenanceについて、どの検査がいつ行われて、どの検査がもれているのかということが一目でわかるようになっていること、そしてもうひとつ特筆することとして、refilを頼む患者は電話で申し込むことになっていて、この情報が薬局から電子カルテに入ってくるようになっていることを電子カルテの有用な点として評価しておられた。このシステムにより、患者の薬のadherenceや、過剰投与の抑制、そして処方内容の照会が非常にしやすくなったとのことであった。

休みは国民の休暇以外に、1年で1~2週間しかとらないとのことであった。
以前MSUのfaculty staffに話を同じことを聞いたが、学会での研修日なんかを全て含めてで1年で20日程度の保障があるそうだが、それを全てとる人はほとんどいないそうである。理由は、患者のニーズに答えるため、あまり休みはとれないとのことであった。
日本では、医師の過労が問題になっているが、少なくともMSUの職員と開業医に関してはアメリカでも状況は同じかもしかしたら条件は日本よりも過酷かもしれない。

ひとつ感じたのは簡易血糖測定器のPT-INR盤のようなのを用いてそれをその場でチェックしている人がいたが、これは是非我々の職場でも採用して欲しいと感じた。

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